IT産業、地方の実相

                        ITジャーナリスト・今賀直之


[3Kからの脱却をITに求める]

 地方のIT産業の現状をつぶさに観察するという連載の一環で、沖縄を取材した。3年ぶりの沖縄取材で、「沖縄の変化」を
期待していたのだが、実際は、かつてと何も変わっていないという印象を受けた。

 俗に沖縄の経済は「3Kで持つ」といわれる。観光、建設そして基地である。失業率が全国1位の沖縄にとって、3Kに
匹敵する新たな産業を育てるのが悲願。そこで白羽の矢がたったのがITだった。しかし、沖縄県が「IT産業」として誘致して
いるのは、現実的にはコールセンターだ。

 あらためて説明する必要もないだろうが、コールセンターとはカスタマー(およびその予備軍)の窓口となる組織である。
家電やパソコンのトラブル、保険の申し込みなどフリーダイヤルで問い合わせるとつながるのがコールセンターだ。電話を
かけた皆さんはあまり気がつかないが、東京の本社にかけたつもりでも、その電話が実際につながっている先は地方で
ある場合が多い。

 比較的広いオフィススペースと人数分の電話、パソコンがあれば、コールセンターを開業することができる。どこに電話が
つながろうと、トラブル解決や問い合わせに答える機能があればよい。方言と言う問題もあるが、矯正して標準的な日本語で
答えられれば問題はない。

 そうしたコールセンターは、就労の受け皿が少ない地方にとって、多くの雇用を創出するという点で非常に魅力的である。
たとえ契約社員やパートであっても、収入にはつながるし、仕事も安定している。企業からすると、地方の給与水準が低い
というメリットもあり、コールセンターの多くが地方をターゲットにする。結果として、沖縄や北海道などにコールセンターが
ひしめくことになる。東北地方などにもコールセンターは多く、役所の産業振興担当者は、「最初に勤務したコールセンターで
身につけたスキルで、他のコールセンターに転職する例もある」と労働市場の活性化などの効用を強調する。しかし、本当は、
商品などの知識を身につけたわけではない。単に、電話の応答になれたということなのだが。



[安易な施策に反省の声も]


 沖縄では、「コールセンターの誘致に熱心になりすぎた」という反省もあると聞く。経験者が増えると、賃金コストはわずか
ずつでも上昇する。もともと企業は安い労働力を求めて地方に出たのだから、採算が合わなければ他の地方に簡単に
移っていく。特にコールセンター誘致に熱心で、自治体が補助金などを提供してきたところは「補助金の切れ目が縁の切れ目」
になることもあり得る。それでなくても、新たに「コールセンターでも誘致しよう」という地方自治体は多いのだ。

 高度成長期には地方への工場進出が当たり前だった。地方は工業団地を用意して企業を誘致してきた。しかし、バブル
崩壊後は整備が終わっていながら閑古鳥が鳴く地方の工業団地は多い。まして製造業はこの10年、中国など海外への
生産移転に熱心だった。

 地方を回っていると、「東京以外は全て地方化」していると感じる。関西も例外ではない。地方が豊かな個性を持つ、
というのはある種の理想。東京一極集中の今、生き残り策を考え、それを実行できている地方があるだろうか。「地方の時代」とは、
東京集中の裏返しでもある。必死に上昇気流をつかもうとしている地方の取材を続けていると、「がんばれ」という気持ちと同時に、

無策に等しい自治体に対する「むなしさ」も湧いてくる。


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