政令指定市になった意味


[1820分の15の責任]


 「万が一」という言葉があります。確率の話であれば、「1万回に1回出現する」ということですが、
辞書には「ほとんどないが、きわめてまれにある」と出ています。非常に重い価値を持つということでしょう。

 では、「1820分の15」という数字はどうでしょう。確率でいうと、「121回に1回出現する」となりますので、
「万が一」に比べたら大したことはない数字です。でも、重みのない数字と言えるのでしょうか?

 2006年4月1日、堺市は全国で15番目の政令指定都市になりました。今年3月末までの時限立法だった
合併特例法により「平成の大合併」が進められました。1999年3月末時点で全国に3232あった市町村は、
この大合併により1820に再編されました。全国をみれば、自治体数が半減した道県も多いですが、
大阪府下では堺市と美原町との合併事例だけです。そして、この合併の特例により、新・堺市は
政令指定都市になったのです。

 確かに堺市は、40年来の悲願として政令指定都市への移行を目指していました。もちろん、賛成の
声ばかりでなかったのも事実です。しかし、堺市は全国15番目の政令指定都市になったのです。
なった以上は、「悲願達成、良かった良かった」で済ませることはできませんし、「やっぱり反対だった」と
後ろ向きの姿勢に終始することもできません。政令指定都市移行は、ゴールではなく、スタートなのです。
政令指定都市になった意味を考え、これから目指すべき方向を見定めなければならないのです。
それが「1820分の15」の責任なのです。

 政令指定都市になったことで、国や大阪府から税財源が移譲されます。2006年度の堺市の収入は、
141億円増える見込みです。もちろん、支出も102億円の増加が見込まれますが、差し引きで39億円の
新たな財源が生まれ、行政の自由度が増します。これは、政令指定都市移行のメリットといえるのかも
しれません。さらに、合併したことのご褒美として、合併特例公債を発行することも可能です。しかし、
何でもかんでも整備していってもいいというのではありません。財政の健全性を示す経常収支率は
95.5%で、15の政令指定都市の中で8番目とほぼ真ん中ですが、トップのさいたま市とは
12.5ポイントの開きがあります。経常収支が赤字の神戸市や大阪市を除くと、下位の都市は皆同水準に
あります。財政健全化の努力は必要ということであり、決して余力があるわけではないのです。



[自知都市・堺を目指す気概が必要]

 2005年に実施された国勢調査で、日本は人口減少の段階に突入したことが確認されました。堺市も、
美原町との合併がなければ、人口は横ばいのままでした。また、高齢化も一層進みます。税収が増えない
一方で、扶助費は増えていきます。自由度が増す代わりに、自助努力を求められる政令指定都市は、
あらゆる観点から「知恵」を使って、健全な財政運営をしていかなければなりません。

 政府では、自治体破綻法制の検討を進めており、数年内には施行する考えを打ち出しています。
現在の財政再建団体制度より厳格なものになると考えられ、住民にも行政サービスの低下といった形で、
負担を強いられる可能性があります。適正な負担で、健康的な生活を送るためにも、財政に対する意識も
高めていくことが重要となるのです。そういった観点からも、今回の政令指定都市移行は、行政だけでなく、
個々の住民を含めた民間も「知恵」を出し合っていく契機であり、新生・堺がブレークスルーを目指す
いいタイミングでもあるのです。自らを知り、自らの知力によって課題を克服する。私はこれから目指すべき
方向性を、中世の「自治都市・堺」になぞらえて、「自知都市・堺」と呼びたいと思います。

 これまで、私が記者活動を通じて得た知見から、少し考えてみただけでも、「財政健全化」だけに
とどまらず、「産業振興」「人口減少」「高齢化」「教育」「環境問題」など、堺市が抱える問題は山積しており、
それぞれが複雑に絡み合っています。すぐにも解決できるわけではありませんが、ジャーナリストとして、
それらをテーマアップし、問題提起することは可能だと思っています。

 もちろん、一面的な見方に陥ってしまうこともあるかもしれません。しかし、決して多様性を否定する
立場ではありません。多くの方々に見ていただき、考えていただく。そのきっかけになればと思います。
得手不得手はありますが、これから様々なテーマを私なりに取り上げていくつもりです。



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