知力=まず工夫


[顔の見えない政令市・堺]

 何という雑な大見出し、まずは失礼をお詫びいたします。

 堺には、「ものの始まり、何でも堺」と、謳う新・堺音頭というのがあります。三味線も、小唄も、そのほかにも様々なものが、
堺発祥とも伝えられており、有り体に言えば、それを自慢する内容。確かに誇るべきものが堺発祥なのですが、残念ながら「始まり」を
発信していたのは、すべて過去のこと。このtriboundary-sakaiでも、information堺で取り上げているスポットなどは、やはり歴史に
根ざすものが中心となっています。新しいものを取り上げたいのですが、現状では堺から発信し、全国に影響を及ぼすことができる
ものはありません。堺は、進取の精神を忘れたか、発揮することを怠ってきたのです。

 私は、政令指定都市移行をきっかけに、堺が知力を取り戻すべきだと考えますが、その理由の第一は、特徴のなさということです。
堺市は府庁や県庁所在地ではありませんから、まず全国的な知名度に劣ります。たとえ名前が知られていても、具体像をイメージして
もらうことはできません。この点では、川崎市や北九州市も、堺市と同じですが、製造品出荷額などの指標をみると、川崎市は横浜市に
迫る勢い、北九州市は福岡市を上回っています。2007年に政令指定都市移行を目指す新潟県新潟市は県庁所在地ですし、
静岡県浜松市も、人口や産業という点では、政令指定都市になっている県庁所在地の静岡市を上回っています。

 一方、堺市が大阪市に勝っているのは、経常収支率ぐらい。もっとも、赤字の大阪市に負けていたら、それこそ大変です。
付け加えると、堺市と千葉市、札幌市を除いて、すべて新幹線の駅があり、降り立つことはなくても、どこかへの移動の途中で、
街並みぐらいは見かけている人も多い。つまり、政令指定都市の中で、堺市だけが顔の見えない都市。言うならば、
一般市が大規模になっただけのことなのです。

 特徴が見えないままでは、他に埋没してしまいます。それでは、40年来の悲願達成といっても、意味はありません。そこで、堺市も、
政令指定都市移行に合わせ、今年度から「自由都市・堺 ルネサンス計画」をスタートさせました。「進取の気風」や「自由と自治」の
精神を受け継ぎ、新しい「堺のブランド力」を発信すると謳っています。マスメディアも、こうした考えを多とし、この3月末から4月初めに
かけて、盛り上げるための発信を行いました。もっとも、これは、ご祝儀広告とも結びついた、いわゆる「提灯記事」も少なからずあります。
マスメディアに身を置いた者として、遺憾ながら、私自身も経験したことです。


[過去に頼らぬ、前向きの知恵を]

 「自由都市・堺 ルネサンス計画」には、140を超える項目について、取り組む方針が示されています。仁徳天皇陵を含む、
百舌鳥古墳群の世界遺産登録。千利休や与謝野晶子など、堺ゆかりの歴史を踏まえた文化の発信。市内交通の動脈となる
新たな路面電車の整備。西日本のサッカーの聖地となるナショナルトレーニングセンターの整備。すべてとは言いませんが、
少なくとも情報発信という点に限っては、やはり「過去に発信された進取の精神」に負う部分が多くなっています。個人のホーム
ページならともかく、行政の中期計画としてはいかがなものでしょう。無計画に開発され、往時を偲ぶこともできない百舌鳥古墳群を
世界文化遺産に登録することが、堺の知力でしょうか? 遺構すら残っていない中世の自治都市、しかも、線にすらならず、
点でしかない資源をもって、全国に誇ることが、堺の知力でしょうか? 滋賀県・長浜や山口県・柳井、さらに多くの都市が歴史的
町並みをもって、町おこしを行っています。時間をかけ、住民の協力を得た上で、面とまではいかなくても、少なくとも線としての
整備を行っています。それでも必ずしも成功事例ばかりではないのです。もちろん、既存の資源・資産を活用することは重要ですが、
それで、政令指定都市・堺の特徴を明確にし、観光に資することがどれだけ可能でしょうか?

 では、知力とは何を言うのか? 実務に関わったわけでなく、たかだか10数年の記者活動をしてきた人間に指摘できるのか、
と問われることでしょう。敢えて申し上げるなら「まず、皆が知恵を働かせ、工夫をすること」です。「何を寝ぼけた事を」と指摘される
でしょう。しかし、堺はこれを怠ってきたのです。83万市民が、過去の幻影を求めるのではなく、前向きの工夫をして、現代に、
そして未来に誇れる都市を作る。これは、堺以外の14政令指定都市でも、成し遂げたところはありません。そこに向かって努力する
ことが、最も堺を特徴づける方向なのではないでしょうか。

 幸い、「自由都市・堺 ルネサンス計画」には、市民参加の市政のあり方を検討し、ガイドラインとして整備することが盛られています。
そして、まだそのガイドラインはまとめられていません。政令指定都市移行、ガイドライン策定というチャンスを捉え、文字通りの
「自由都市・堺」を目指す、まさにその時なのです。


[適正負担・納得サービス=住民満足度の向上]

 ヒントは、たくさんあります。実は多くの自治体では、それぞれに取り組みがなされています。堺は、それを怠っていた、
もう少し好意的にいえば、手がけている余裕がなかっただけなのです。政令指定都市を目指さねばならなかったのですから。
しかし今、格差社会が深刻化しているなか、基本的な行政サービスが納得できる形で、かつ効率的に運用されれば、税負担の
公平性は担保されることにつながり、前向きの力を生むことにつながります。

 公的施設の運営などに、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)や指定管理者制度を用いている自治体は少なくありません。
しかし、堺ではようやく清掃工場において初のPFI導入が検討されるようになりました。また、指定管理者制度も、市の外郭団体による
契約が中心となっており、根本的なメリットが得られているとは言えません。
 企業を呼び戻すことも、
税収の増加につながり、意味のあることですが、その施策についても検討が必要です。他の自治体と横並びでは効果が薄く、
思い切った取り組みが求められます。参考になる事例は、全国に多々あります。新産業創出や中小企業振興についても、
同じ大阪府下の自治体にさえ、リードされている部分があります。これでは、全国を相手に戦えません。
 こうした観点から新たな施策を打ち出すことで、財政の健全性が高まれば、住民の負担感も減り、居住する都市としての
堺の魅力も増すはずです。人口減少や高齢化に歯止めをかける意味でも重要です。
 さらに、市の支出の一部を市民が選べるようにしている自治体もあります。必ずしもうまく回転しているわけではありませんが、
制度の改善を図りつつ、導入すれば、住民の満足感は一層高まるはずです。悪循環の「負のスパイラル」ではなく、
「正のスパイラル」の構築を目指すべきなのです。

 こうした、個々の課題については、改めて別稿で考えていきたいと思いますが、知力=まず工夫=適正負担・納得サービス=住民満足度の向上、
という流れを作るにはどうすべきか、ということを83万市民が考える。それが「堺の知力」であり、「進取の精神の発信」に
つながるのではないでしょうか。


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